勉強会:リンガル矯正におけるハーフデジタルセットアップ

こんにちは。博多プライベート歯科ドクターの田中です。
リンガル矯正(舌側矯正・裏側矯正)では、舌側の歯の形態が複雑で個人差も大きいため、
ブラケットの位置決めにはセットアップモデルを用いたインダイレクトボンディング法が一般的です。
しかし、従来のアナログセットアップは、手間や時間がかかるうえに
技工士の技術によるばらつきが生じることが課題とされてきました。
そこでデジタルとアナログの利点を融合させた「ハーフデジタルセットアップ」が注目されています。
先日ハーフデジタルセットアップについて学ぶ機会がありましたので、院内で共有いたしました。

近年、デジタル技術を活用したセットアップが進化し、オーラルスキャナーで取得したデータをもとに、
デジタル環境でセットアップモデルを作製するシステムが確立されています。
これにより、ネット環境があれば即座にデータの確認・修正が可能となり、
より効率的な矯正計画が立てられるようになりました。
一方で、アナログセットアップの利点としては、その場での微調整や咬合状態の直接確認が挙げられます。

デジタルとアナログの利点を融合させた「ハーフデジタルセットアップ」という方法では、
デジタル上で歯列を排列し、それをマニュアルセットアップへと正確に移行させることが重要になります。
現在、3Dプリントした模型に基準となるマークを施し、
それをもとにアナログ作業へと移行する工程が確立されています。
この手法により、デジタルセットアップの対称性の向上や作業の効率化が図れるほか、
技工士の技術差による影響も軽減されました。
最終的な調整は、経験豊富な技工士や矯正医が行うことで精度を高めますが、
アナログセットアップと比較して作業時間は大幅に短縮されています。
フルデジタルほど単純ではありませんが、アナログと比べて効率が向上し、
より精度の高いセットアップが可能になる手法として、今後の発展が期待されます。

勉強会:重度の顎関節症に対するスプリントを用いた治療の有用性②

こんにちは。博多プライベート歯科のドクター田中です。
今回は、前回お話しした論文の内容についてご紹介いたします。

噛むと顎に痛みを感じるほど重度の顎関節症を抱える患者8名を対象に、
スタビライゼーションスプリント(以下SS)を使用した治療を2週間実施し、その経過を観察しました。
この研究により、咀嚼筋痛障害を有する患者において、SS療法が筋肉の痛みを緩和し、
防御的な筋スプリンティング(筋肉の過度な緊張)を軽減することで、
下顎の可動域が拡大することが確認されました。
また、これに伴い、咬合接触状態にも変化が見られる傾向が示されました。

以上の結果から、咀嚼筋痛障害を持つ患者では、発症時に顎の運動制限が生じ、
咬合状態にも変化が起こる可能性があることが示唆されます。
そのため、咬合採得(噛み合わせの記録)や咬合調整を行う際には、
患者様の咀嚼筋に痛みがあるかどうかを十分に考慮する必要があるといえます。

当院では、咬合の適正化を目的とした矯正治療 を通じて、
顎関節への過度な負担を軽減し、顎関節症の発症リスクを低減することを目指しております。

不正咬合による咀嚼時の負担や、不均衡な咬合接触がもたらす顎関節へのストレスは、
長期的に顎機能の異常を引き起こし、顎関節症の原因となることが知られています。
当院では、患者様一人ひとりの顎関節の状態を精査し、
咬合のバランスを考慮した矯正計画を立案することで、審美性の向上だけでなく、
機能的な観点からも健康的な口腔環境を構築することを重視しております。

矯正治療を適切な時期に行うことで、将来的な顎関節症のリスクを軽減し、
快適な咀嚼機能の維持につながる ため、噛み合わせや顎の違和感でお悩みの方は
ぜひ当院までご相談ください。

勉強会:重度の顎関節症に対するスプリントを用いた治療の有用性①

こんにちは。博多プライベート歯科のドクター田中です。

歯並びの問題は、見た目だけでなく様々な健康被害を引き起こします。
その一つには不正咬合による「顎関節症]があります。
顎関節症は、咀嚼時の痛みや顎の開閉障害、
関節雑音(カクカク音やジャリジャリ音)などを引き起こす疾患であり、
生活の質を大きく低下させることがあります。
特に、重度の顎関節症では、関節の変形や筋肉の過緊張が進行し、
慢性的な痛みや開口障害が長期化することも少なくありません。

そのような症例に対して、有効な治療法の一つとして スプリント療法が挙げられます。
スプリントとは、上下の噛み合わせを調整するための装置であり、
主に透明なレジン(樹脂)で作製されます。
主な目的は、関節や咀嚼筋への負担を軽減し、顎関節の安定を促すことです。
全歯接触型スプリントは「スタビライゼーションスプリント」や
「スタビライゼーションマウスピース」と呼ばれます。

先日の院内勉強会では、スタビライゼーションスプリント治療を2週間経過観察をし
顎関節の変化についてまとめた論文を院内で共有いたしました。
次回の記事では論文の内容についてもご紹介いたします。

勉強会:矯正装置が誘発する歯周病とは

こんにちは。博多プライベート歯科のドクター田中です。

現在2024年より53年前の1971年に発行された日本歯周病学会会誌に
「矯正装置が誘発したと思われる歯周病の一症例について」という症例が紹介されていました。
当時30歳の患者様は10代の頃に歯列矯正治療を受け、
上下左右の6番の動揺が大きくなったことで歯科医院を受信しました。
レントゲンでは著しい骨吸収が見られ、この原因は矯正用バンド装着による負担過重性吸収であると結論付けられました。
連続インレーの永久固定装置を装着し、歯槽骨の回復を期待するというところで記事は終わっています。

現代の矯正治療は、50年前とは比べものにならないほど進化しています。
当時は装置の大きさや形状から清掃が難しく、歯周病や骨吸収のリスクが高まるケースも少なくありませんでした。
一方、現在では技術革新が進み、矯正装置の選択肢が格段に広がっています。
例えば、目立ちにくいセラミックブラケットや、
取り外し可能なマウスピース矯正(インビザラインなど)が登場し、審美性や利便性が大幅に向上しました。
マウスピース矯正は装置自体が薄く、歯磨きや口腔ケアがしやすいため、
歯周病リスクを最小限に抑えながら治療を進めることができます。
さらに、デジタル技術を活用した治療計画の立案も可能です。
口腔内スキャナーや3Dシミュレーションを用いることで、歯の動きを精密に予測し、患者様にとって負担の少ない治療が実現しています。
もちろん、どれだけ技術が進んでも適切な口腔ケアと定期的な管理が不可欠です。
矯正治療中は、歯並びの改善とともに歯周病の予防にも意識を向け、トラブルなく治療を完了することが大切です。

時代とともに矯正治療はより安全で快適なものへと進化しています。
歯並びや噛み合わせに悩みがある方は、ぜひ現代の治療法を知っていただき、歯科医師と相談しながら適切な方法を選んでいただければと思います。

勉強会:舌を繰り返し噛んでしまうケースについて

こんにちは。博多プライベート歯科のドクター田中です。

小児歯科学雑誌に掲載されていた症例について、院内勉強会で共有したのでこちらでもご紹介いたします。
1歳3か月の男の子が舌を噛んでしまうということで、日本歯科大学附属病院小児歯科を受診した症例です。
生後9か月頃から下の前歯が生え始めて以来、睡眠中に舌を頻繁に噛むようになったとのことです。
周産期や健康面に特別な問題はなく、指しゃぶりなどの習慣もなかったため、
家族歴を確認したところ、両親に歯並びの乱れや交叉咬合があることがわかりました。

口の中を確認したところ、下の前歯が混み合って生えており、舌の先端部分に潰瘍ができていました。
また、下顎の筋肉が自分の意志とは関係なく動いてしまう「不随意運動」と呼ばれる症状や、
刺激に対して歯を強く噛んでしまう「咬反射」も見られました。舌を噛む頻度が多いため、
睡眠時の「ミオクローニア」という無意識の筋肉の痙攣が原因ではないかと考え、
精密検査を行いましたが、脳波には特に異常は見つかりませんでした。

治療方針としては、年齢が低いために保護装置を装着するのが難しかったことから、
代わりに「筋刺激訓練法」を応用した歯肉のマッサージと、
舌の位置を正しく保つためのトレーニングを保護者の方に指導しました。
ご自宅でこの訓練を続けることで、口の感覚が整い、舌を噛む頻度が徐々に減っていくことが期待されます。

お子さんに限らず、歯並びや噛み合わせの問題はさまざまな年齢で起こり得ます。
矯正治療が必要かどうかは、年齢や症状により異なりますが、早めに対応することで将来のトラブルを防ぐことができます。
歯並びや口腔機能にご不安がある方は、ぜひ一度ご相談にいらしてください。
私たち専門の歯科医師がしっかりとサポートいたします。

勉強会:矯正装置の装着が視覚的注意に及ぼす影響

こんにちは。博多プライベート歯科のドクター田中です。

矯正装置の装着が笑顔への視覚的注意に及ぼす影響を調査した論文があります。
矯正治療では治療中の見た目の問題を気にされる患者様も多いので、
ご興味を持っていただけるのではないでしょうか。

矯正装置付きの笑顔を、矯正歯科医と比べて、一般の方がどう見ているのか調べるため
装置を装着していない状態・透明マウスピースを装着した状態・
セラミックブラケットを装着した状態・メタルブラケットを装着した状態の
女性モデル10名の正面からの笑顔の写真を撮影し、目、鼻、口の注目領域(AOI)を測定します。
43名の非歯科関係者の方と、42名の矯正歯科医の視覚的注意を調査したところ、
一般の方も歯科医師も、何も付けていない笑顔のときよりも、
セラミックブラケット・メタルブラケットを装着した状態の写真の口元を見る時間が
格段に長くなっていたそうです。

やはり、矯正装置が目立つと、どうしても口元に視線が集中してしまうということですね。
しかし、当院では見た目を気にせず、快適に矯正治療を受けていただけるよう、
目立たない装置もご提供しています。例えば、透明マウスピースやセラミックブラケットなど、
より自然に見える選択肢があります。
ただし、どの装置が最適かは、患者様の歯並びやお悩みによって異なります。
お一人おひとりに合った治療法をご提案いたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。

勉強会:矯正治療が歯の神経に及ぼす影響とは

こんにちは。博多プライベート歯科のドクター田中です。

歯列矯正治療を短期間で済ませたいのであれば、
強い力で一気に歯を動かせばいいのではないかと言うと、そうではありません。
急に大きく動かした歯は、後戻りしやすいと言うだけでなく、健康被害も起こります。

代表的な症状が穿下性吸収(せんかせい吸収)です。
歯に過度な力を加えると、周囲の血管が圧迫され、歯根膜が壊死する現象が起こります。
その結果、新しい歯根膜が壊死した組織を吸収することになります。
このプロセスによって、歯が動かない停滞期と、動く時期が交互に現れるため、
治療期間が長引くことがあります。
さらに、強い痛みを引き起こし、歯がぐらついてきてしまうこともあります。

適正な力加減で、なおかつ患者様が求める治療スピードにお応えするためには
多くの治療を経験し、知識や技術を磨いておかなければなりません。
医院選びの参考に、症例数などを見てみるのもおすすめです。

勉強会:歯槽骨皮質骨切術(コルチコトミー)

こんにちは。博多プライベート歯科のドクター田中です。
先日、「コルチコトミー」に関するセミナーに参加してきました。
コルチコトミーとは、歯槽骨皮質骨切術と呼ばれる手術のことで、
矯正治療をスピーディーに進めるための手法です。
一般的には「加速矯正」として知られており、この手術を行うことで、
通常2〜3年かかる矯正治療の期間を、数ヶ月から1年ほど短縮することが可能になります。

コルチコトミーは、歯を支える歯槽骨の表層部分(皮質骨)に意図的に切れ込みを入れることで、
骨の代謝を促進し、矯正力を高めるものです。
この治療法により、歯が支えられている骨ごと動かすことができるため、矯正治療の進行が早まります。

さらに、骨には「傷つくと回復後に強くなる」という性質があるため、
治療期間が短縮されるだけでなく、矯正後の後戻りや
歯根吸収といったリスクも低減できるという利点があります。

ただし、コルチコトミーはその特性上、非常に高度な技術と経験が必要とされる治療法です。
手術の成功には、歯科医師の技量や骨の解剖学的な知識、
そして患者様の個別の健康状態に対する適切な判断が不可欠です。

私たちは、最新の技術や治療法に常に触れ、
患者様に最適な治療を提供するために日々研鑽を積んでおります。
矯正治療を検討されている方は、ぜひご相談ください。

勉強会:鞍状歯列弓の治療

こんにちは。博多プライベート歯科ドクターの田中です。

当院では患者様を治療する過程の症例写真や処置内容を院内で共有し、
スタッフ全員の知識や経験を高めるための取り組みを行っています。
このような情報共有を通じて、各スタッフがそれぞれの役割を深く理解し、
より質の高い治療を提供できるよう努めています。

先日は重篤な鞍状歯列弓(あんじょうしれつきゅう)の患者様の治療例を共有しました。
鞍状歯列弓とは、歯列が馬の鞍のような独特な形をしている状態を指します。
このような症例では、通常の治療アプローチでは不十分であり、
患者様一人ひとりの状態に合わせた高度な矯正計画が求められます。

今回の症例では、まず詳細な診断とデジタルシミュレーションを用いて治療プランを策定しました。
治療計画には、歯列全体のバランスを考慮しながら、
咬合力の分散と安定を図るためのステップが組み込まれており、
結果として患者様には機能的かつ美しい歯列がもたらされました。

このような難症例に対しても、当院では常に最新の技術と知識を駆使し、
最良の結果を提供することを目指しています。
患者様にとって最も効果的な治療法を選択するために、
全スタッフが一丸となって情報を共有し、日々研鑽を重ねています。
お困りのことがありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。

 

勉強会:後戻りを見越したオーバーコレクション

こんにちは。博多プライベート歯科ドクターの田中です。

矯正治療では、治療後に歯が元の位置に戻ってしまう「後戻り」がよく見られます。
これを防ぐために、あらかじめ歯を予想以上に動かしておく方法が「オーバーコレクション」です。
内側にあった歯が矯正治療で外側に移動しても、再び内側に戻ろうとする傾向があります。
そのため、意図的に少し外側に多めに移動させるオーバーコレクションが行われることがあります。

この「オーバーコレクション」の考え方は、矯正治療の成功において非常に重要な役割を果たします。
歯には、周囲の筋肉や組織が元の位置に戻そうとする「生理的な力」が働くため、
矯正治療後も定期的なメンテナンスやリテーナーの使用が不可欠です。

当院では、患者さまそれぞれの歯列や骨格、咬合の状態を詳細に分析し、
後戻りを最小限に抑えるためのオーバーコレクションの計画を立てています。
例えば、歯の移動に伴って起こりやすい力の変化を予測し、
細心の注意を払って歯を理想的な位置に導くことを目指します。

さらに、治療後のリテーナーの使用方法や期間についても、
患者さま一人ひとりに最適な指導を行っています。
リテーナーを適切に使用することで、後戻りのリスクを大幅に軽減し、
美しい歯列を長期間維持することが可能になります。

矯正治療は単に歯を整えるだけではなく、患者さまの笑顔と健康を守るためのプロセスです。
当院では、最先端の技術と知識を駆使し、患者さまの期待に応える矯正治療を提供しています。
後戻りを防ぎ、美しい歯並びを長く維持するためのサポートをお約束いたしますので、
矯正治療をお考えの方はぜひ一度ご相談ください。

後戻りを見越したオーバーコレクション

勉強会:口腔細菌叢の基盤が整う時期

こんにちは。博多プライベート歯科ドクターの田中です。

ライオン株式会社の研究により、3歳までに成人の口腔細菌叢を構成する主要な菌種の多くが定着し、
その後3歳から5歳の間では大きな変化が見られず、
5歳時点での口腔細菌叢は成人とほぼ同じレベルまで形成が進んでいることが明らかになりました。
本研究から、3歳までが子どもの口腔細菌叢の基盤が整う重要な時期であり、
特に1歳半までの間に細菌叢の形成が急激に進行することが示されています。
この期間には、むし歯や歯周病の予防に寄与する可能性のある細菌も構成に加わることが確認されています。

また、口腔細菌叢の乱れがむし歯や歯周病の発症に関与する可能性が指摘されており、
歯科治療後においても細菌叢の乱れが残る場合があることが分かっています。
このため、口腔細菌叢を良好に保つことが予防歯科の観点から重要と考えられます。
今回の研究結果は、乳歯が生えそろう3歳頃までの時期が生涯にわたる健康的な口腔環境を維持する基盤となることを示唆しています。

成人後、虫歯や歯周病にかかりやすい方は、子供の頃の口腔環境に問題がああったという可能性がありますが
矯正治療を受けることで、歯並びが整い、歯磨きがしやすくなり細菌叢のバランスを保つ一助となります。
健康な歯並びと良好な口腔環境は、生涯にわたる美しい笑顔と健康の基盤です。
口腔環境の改善のために歯並びを整えたいという方は、お気軽にご相談ください。