保険適応でも金属をまったく使用しない白い差し歯が入れられるようになったというお話を聞いたことがありますか?
今まで保険で前歯を差し歯にする場合は、金属に前側だけプラスチックを貼り付けた「前装冠(ぜんそうかん)」という被せ物しか使えず、奥歯には銀歯のメタルクラウンしか認められていませんでした。
しかし最近では、前歯にも奥歯にも入れられる白い差し歯「CAD/CAM冠(キャドキャムかん)」が、条件付きで保険でも使えるようになっています。
保険が効くなら自費のセラミックよりそちらのほうが良いと思ってる方もいらっしゃるかと思いますが、こちらをお読みいただければ考えがかわるでしょう。
これから、保険の白い差し歯と、自費の白い差し歯(オールセラミック・ジルコニアなど)の違いをご紹介いたします。
「もう自費で白い歯を入れる必要はなくなったの?」「自費のセラミッククラウンとはどんな違いがあるの?」といった疑問にお答えいたします。
患者様から「保険適用でセラミックを入れられないの?」とご質問をいただく機会は少なくありません。
今までの保険では、銀歯か、金属とプラスチックを合わせた前装冠という被せ物しか選べず、費用面の問題で白い差し歯を諦めていた方もたくさんいらっしゃったことかと思います。
2022年4月(令和4年度)の診療報酬改定によって、保険の治療に「CAD/CAMインレー」が導入されることが決定しました。
被せ物(差し歯)の「CAD/CAM冠」は、2017年12月に奥歯への使用が導入され、2020年9月からはさらに治療可能な範囲を前歯部にまで拡大していきました。
素材の選択肢が増え、保険でも白い見た目の差し歯(冠・クラウン)や詰め物(インレー)が入れられることにお喜びの方も多いかと思います。
まずCAD (キャド・Computer Aided Design)がコンピュータを使用して設計を行うシステムのことを言います。コンピュータソフトを使って詰め物や差し歯を設計すると、形や噛み合わせの高さなどが自動で設計され、適合性の高い補綴物の制作ができます。
しかし現時点ではまだ粘土のような印象材を使って型を採る必要があり、型採りまではコンピュータを使った撮影のみで済ませることはできません。
CAM(キャム・Computer Aided Manufacture)とは、「コンピュータ支援による製造」を意味し、CADで作成したデータや図面をもとに製品や部品を制作・加工することをいいます。
つまり歯科技工物におけるCAD/CAMとは、コンピュータや機械を使って詰め物(インレー)や被せ物(差し歯・クラウン)を設計・制作をする技術のことです。
自費の技工物が技工士の手によって一つずつ手作業で制作されるのに対し、設計から作成までを機械で行うため、安価な保険の治療でも使用できるのです。
そしてCAD/CAMインレー・CAD/CAM冠に使われる素材はセラミックではなく、プラスチックに少量のセラミックを混ぜたハイブリッドレジンという素材です。
ハイブリッドレジンとセラミックは全く異なる素材です。
「CAD/CAM冠とCAD/CAMインレー」=「セラミック」という誤解が広まり、「保険診療でセラミッククラウン・インレーが可能だ」という誤った認識をお持ちの方もいらっしゃいます。この勘違いの原因は、歯科医師・患者様の間での知識不足と、材料メーカーが提供する製品名が混同を招くことによるものです。
歯科医師は治療に関する広範な知識を持っていますが、材料の詳細については専門的な知識が不足している人もいます。特にCAD/CAM冠やインレーのセラミックとレジンの違いについては、混同が生じやすい分野です。歯科医学の学校で学んだ知識は理論的なものであり、実務においては製作過程まで詳細に関与することは少ないため、歯科医師が材料について深く理解する機会は限られています。
知識が乏しく歯科材料について詳しくない歯科医師でも、実際の詰め物・被せ物などの作成をするのは歯科技工士なので、治療はできてしまいます。
材料メーカーが提供する製品名が混同を招くケースもあります。例えば、「ハイブリッドセラミック」という名前は、実際にはレジンにセラミックの粉を混ぜたもので、保険の白い差し歯CAD/CAMで使用する素材にもっとも近いものです。
名前に「セラミック」と入っていることで、中には「ハイブリッド」の名前を外して「セラミック」と呼ぶ歯科医院もあり、治療に使われるようになった当初は歯科業界内でも混同が生じ、患者様にも混乱を招きました。
実際のハイブリッドセラミックはオールセラミックよりも圧倒的に柔らかく、変色や劣化しやすいものです。美しさをいつまでも保ちたい方や、二次虫歯の発生を予防したい方には、オールセラミックが向いています。
1.印象(型採り)
コンピュータで設計するとは言っても、前述したように従来の印象材を使った型採りは必須です。お口の中をカメラでスキャンし、型採りをしなくても済むということはありません。
2.模型作り
型採りした型に石膏を流し、石膏模型を作ります。
3.技工所に模型を送る
技工物は材料や設備が整った技工室で技工士によって作成されますが、保険適用の治療を行う一般歯科には技工室が併設されていることが珍しく、たいていの場合は歯科技工所に模型を渡して制作を依頼しています。
4. 3Dスキャナーで模型をスキャン
スキャンするのは患者様のお口の中ではなく、石膏模型をスキャンしなければなりません。
この方法は「間接法」といって、保険適用のためのルールとして定められています。
5.コンピュータで補綴物を設計
スキャンデータをもとにコンピュータで補綴物の設計図のようなものを作ります。
6.機械で技工物を作成
設計図から自動で技工物を作成してくれる機械を使い、レジンブロックというレジンの塊を削り出してインレーやクラウンを作ります。
7.歯科医院へ納品
出来上がった技工物を、技工所から歯科医院へ送ります。
技工所と歯科医院が離れている場合、患者様の希望する日時までに納品が難しい場合が考えられます。
保険適用なので安価
今までは裏側まですべて白い差し歯を入れたい場合は、自費のオールセラミックなどの治療を受けるしかありませんでしたが、CAD/CAM冠が保険適用になったことで安価な治療費で白い差し歯を入れられるようになりました。手軽に白い差し歯を入れたいという方には向いているでしょう。
銀歯に比べると見た目が美しい
CAD/CAM冠は白い色のハイブリッドレジン(プラスチックに少しセラミックが混ざった素材)でできているため、銀歯のように目立たず、お口を開けてもよく見なければ天然歯と区別がつきにくいでしょう。
金属アレルギーに対応可能
これまでの保険の差し歯は、すべて金属のメタルクラウンか、金属に外側だけ白いプラスチックを貼り付けた前装冠しかありませんでした。CAD/CAM冠は金属を使用しないため、金属アレルギーの方に適していると言えます。
対合歯にやさしい
硬い素材の差し歯は対合歯(噛み合わせたときの反対の歯)に少なからずダメージを与えてしまうのに対し、CAD/CAM冠の素材は天然の歯の硬さに近いと言われています。
差し歯によって対合歯が割れてしまわないか不安という方におすすめです。
すべての歯科医院が対応しているわけではない
CAD/CAM冠を治療として取り入れる際には、歯科医院が厚生労働局への申請をする必要があります。届け出をしていない歯科医院では、患者様にCAD/CAM冠を提供することはできません。
保険適用の条件がある
すべての歯に無条件で保険適用となるわけではありません。片顎で前歯6本と小臼歯(糸切り歯・犬歯の一つ奥の歯と、その隣の小さい奥歯)の2本がまず保険適応となります。第一臼歯(前歯から数えて6番目の歯)は条件付きで適応となりますが、その条件は「第二臼歯(前歯から数えて7番目の歯)が4本ともすべて残っていること」です。第二臼歯を1本でも失ってしまった方は、第一臼歯にCAD/CAM冠を保険で入れることはできません。
さらに、第二臼歯にCAD/CAM冠を入れる際にも条件があります。それは「金属アレルギーであること」です。金属アレルギーと医師に診断された人でなければ、第二臼歯にCAD/CAM冠を入れることはできません。
上下顎両側の第二大臼歯が全て残存し、左右の咬合支持がある患者に対し、過度な咬合圧が加わらない場合等において第一大臼歯に使用する場合
つまり第一大臼歯(6番目の歯)の場合、トラブルが起こる可能性が低い方に限り保険が適用されます。第二大臼歯(7番目の歯)を1本でも失っている方や、食いしばり・歯ぎしりが強い方などは保険適用外となります。
摩耗や破損が起こりやすい
CAD/CAM冠は柔らかい素材であるため、対合歯に優しいというメリットもありますが、その分使っているとどうしても擦り減りやすく、破損も起こりやすくなります。
噛む力がとても強い方や、激しく歯ぎしりをしてしまう方などには向いていない場合があります。
汚れが付きやすい
陶器とプラスチックのお皿を比べるとわかりやすいかもしれません。固く艶のある陶器に比べ、プラスチックは色移りしやすく、傷も付きやすいですよね。細かい傷がたくさんついたプラスチックはツヤをなくし、その傷の部分に汚れが溜まって汚い見た目になっていきます。
プラスチックはCAD/CAM冠、陶器はオールセラミッククラウンで同じことがいえます。
最初は白く、艶があるCAD/CAM冠ですが、月日が経つに連れて美しさは劣化してしまいます。
また、見た目の汚れだけでなく、虫歯や歯周病の原因となるプラーク(歯垢や歯石)も付着しやすくなります。食後は必ずしっかりと歯磨きをできる方でなければ、虫歯や歯槽膿漏に罹ってしまう可能性があります。
色にこだわれない
CAD/CAM冠は一色のプラスチックのブロックを削り出して作成されるため、天然歯の微妙な色の風合いを再現することが難しい場合があります。
グラデーションになったレジンブロックも開発されていますが、グラデーションの幅や色の具合まで個人に合わせることはできないため、理想の色を再現することは難しい場合があります。
銀歯よりも外れやすい
CAD/CAM冠はくっつく力が弱い素材です。強力な歯科用セメントを用いても、外れてしまうことが珍しくありません。
歯を削る量が多い
柔らかく脆い素材の特徴をカバーするために、厚めに設計する必要があります。そのためには歯をたくさん削ることになってしまいます。
色に細かくこだわって作ることができる
CAD/CAM冠のように色が決まったブロックを削り出して作るのではなく、技工士が手作業で少しずつ素材を足して形を作っていくオールセラミッククラウンは、形や角度はもちろん、細かい色の違いやグラデーションも再現することができます。
プラスチックでは再現できない透明感やツヤも、天然歯と区別がつかないほど精巧に作ることができます。
美しさが劣化しない
表面に傷がつきにくく、変色もほぼしないという特徴があります。つけたての美しさをいつまでも保っていられます。
プラークが付着しづらい性質もあるため、虫歯や歯周病予防の面でもメリットとなります。
硬いので破損しにくい
オールセラミックはとても硬い素材なので、割れたり欠けたりすることが起こりにくい特徴があります。
金属の詰め物などは変形しやすく、隙間ができるとそこから菌が入って二次虫歯になることがあります。反対に固く変形しづらいセラミックは二次虫歯の予防にも効果的です。
金属アレルギーに対応可能
CAD/CAM冠同様、金属を使用しないため、金属アレルギーの方に適しています。
治療費が高価
保険適用の治療は、極端に言うと「ただ治ればいい。今後の虫歯の予防や、見た目の美しさはいらない」という考え方で制定されています。したがって、美しさにとことんこだわれるオールセラミッククラウンは、自費診療でしか入れることができません。
オールセラミッククラウンは技術を持った技工士が細かな手作業で一つずつ作るため、制作時間がかかり人件費や技術料が上乗せされ、治療費が高額になりがちです。
しかしそれだけの価値があると感じている方が多いことから、今も人気の治療方法です。
劣化するたびに保険の差し歯を作り変える治療費や手間を考えると、劣化せず美しさを保てるオールセラミックを一回入れてしまおうと考えられる方が多いのかもしれません。
保険診療
自費診療
数年前に保険の差し歯である前装冠を入れられた患者様です。入れたばかりの頃はプラスチック部分が真っ白できれいな状態だったのに、数カ月程度で黄ばみ、いかにも「偽物の歯」という見た目になってしまったとお悩みでした。
前装冠を除去し、美しいセラミッククラウンにやりかえる治療を行いました。セラミッククラウンは変色せず、天然歯と見分けがつかない美しさをずっと保っていることができます。
保険診療
自費診療
古い前装冠のプラスチック部分は黄ばみ、すり減って歯の先端から金属がわずかに見えてしまっています。また、歯茎が下がったことで、前装冠と天然歯の境目も露出している状態でした。
差し歯を入れていることがわからないようにしたいとご相談いただき、ジルコニアクラウンで治療しました。患者様ご希望の真っ白な仕上がりで、たいへんご満足いただけました。
施 術 名 │セラミック治療
料 金 │1本32,000円~70,000円(治療費は材質や治療本数によって異なります)
考えられるリスク │治療後は正しく歯を磨く必要があります。清掃が不十分だと虫歯になったり歯周病を発症してしまいます。定期検診を受診してください。
保険適用の白い歯にも、様々な特徴や条件がありましたね。
もしかしたら、嘔吐反射が強く型採りが苦手な方は、「3Dカメラでのスキャンで被せ物が作れると聞いていたのに…」と、ぬか喜びになってしまったかもしれませんね。
今はまだ「間接法」しかできないCADシステムですが、将来的にはインビザラインなどのマウスピース矯正のように、印象材を使った型採りをしなくてもカメラでの撮影だけで技工物を作れる時代が来るのかもしれませんが、まだまだ実現は難しいかもしれません。
ここでこれまでご紹介したそれぞれの素材を比較してみましょう。
※横にスクロールできます
オールセラミック | CAD/CAM冠 | メタルクラウン | |
---|---|---|---|
審美性 (見た目の美しさ) |
◎ 色の違いや透明度・ツヤの再現が細かくできる |
○ 決められた白さのみ |
× 金属なのでとても悪目立ちしてしまう |
耐久性・硬さ |
◎ とても硬く耐久性に優れているためツヤが持続できる |
△ 柔らかいため摩耗しやすい |
× 劣化・変形しやすい |
金属アレルギー |
◎ 金属を使用しないため金属アレルギーの症状は出ない |
◎ 金属を使用しないため金属アレルギーの症状は出ない |
× 金属アレルギーの方には向かない |
入れるための条件 ※患者様の健康状態などは除外 |
◎ 自由診療なので条件はない |
× 部位によっては金属アレルギーの診断が必要など、様々な条件がある |
× 歯周病の治療途中では入れられない、作り変えるには期間を開けなければならないなど、保険のルールがある |
二次虫歯や歯周病 |
◎ 劣化しづらいため隙間ができにくく、汚れが溜まりにくい |
△ 劣化すると汚れが付着しやすくなってしまう |
× 劣化・変形しやすいため二次虫歯が起こりやすい |
治療費 |
△ 自費診療のみ対応なので高額だが、長い目で見れば適切と感じられる方も多い |
○ 保険適用で手軽に白い歯を入れたい方に向いている |
◎ 保険適用で一番安価 |
それぞれの素材ごとに特徴があり、様々なメリットやデメリットがあることがおわかりいただけましたでしょうか。
保険適用になったCAD/CAMは
・強度の問題から破折リスクが高まる可能性があります。
・クラウンよりも複雑な形状を持つため、適合が難しく治療の精度が低下する可能性があります。
・これに伴い、二次カリエスリスク(虫歯のリスク)も増加する可能性があります。
患者様が保険適用で白い詰め物や被せ物を望む理解は理解できます。しかし、当院では患者様に誤解を与えず、正確な情報を提供することを大切にしています。
歯科医師が患者様に都合の良い情報を提供すれば、その情報が誤っていても、受け入れてしまう方は多いです。歯科医師の知識不足や誤解によって、患者様に不利益が生じることもあるため、正確な情報提供が重要です。それゆえに、正しい情報を提供する責務を果たすべきだと考えています。
歯科医師の知識や治療方針には大きな違いがあり、すべての歯科医師が同じ水準の知識を持っているわけではありません。CAD/CAMなど特定の治療を行うかどうかは、通常、その歯科医院の院長の信念に基づいて決まります。そして、その信念には常に理由があります。
もし、その歯科医院の治療方針に納得できない場合、または意見が合わない場合は、他の歯科医院への転院を検討することをお勧めします。
美しさをとことん追求したい方や、変わらない美しさを持続させたいという方には、オールセラミッククラウンがおすすめです。
価格の面がネックになってしまうかもしれませんが、博多プライベート歯科では多くの方にご満足いただくための価格設定や、モニター価格の実施など、企業努力を行っております。
歯のお悩みはお一人お一人違うものです。院内に技工室を設け、歯科技工士と医師が連携してご提供する当院のオーダーメイドのセラミッククラウンなら、患者様のお悩みにしっかりと応えることが可能です。
出っ歯やすきっ歯、反対咬合など、様々なお悩みを解決することができるのも自費のオールセラミッククラウンの強みです。
お悩みをお持ちの方は、お気軽にご相談ください。